介護中の「これで良いのかな」という気持ちに寄り添う:自己肯定感を育む感情ケア
慢性疾患を抱える方を介護する日々の中で、「本当にこれで良いのだろうか」「もっと何かできることがあるのではないか」と、ふとした瞬間に心がざわつくことはございませんか。あるいは、配偶者の方の状況が思わしくない時に、ご自身を責めるような気持ちになってしまうこともあるかもしれません。
このような「これで良いのかな」という不安や、ご自身を責めてしまう気持ちは、介護を一生懸命されている方ほど抱えやすいものです。それは、大切な方を思い、真摯に向き合っている証拠でもあります。
このページでは、そうした介護者の方の心に寄り添い、ご自身の心を大切にしながら、より穏やかに日々を過ごすためのヒントをお伝えいたします。
介護中に「これで良いのかな」と感じる理由
なぜ、懸命に介護をされているにもかかわらず、こうした気持ちが湧いてくるのでしょうか。いくつか共通する理由が考えられます。
- 完璧を目指してしまう気持ち: 大切な方のことを思うからこそ、「もっとこうすべきだった」「あの時ああしていれば」と、理想的な介護の形を追い求めてしまいがちです。しかし、人間が行う介護に完璧というものはありません。
- 先が見えないことへの不安: 慢性疾患の介護は、終わりが見えない道のりであることも少なくありません。この先どうなるのだろう、という漠然とした不安が、今の行動への自信を揺るがすことがあります。
- 責任感の重さ: 介護は多くの責任を伴います。ご自身の判断や行動が、大切な方の健康や生活に直接影響するという重圧が、時にご自身を追い詰めてしまうことがあります。
- 周囲からの情報や期待: 他の介護者の話を聞いたり、インターネットの情報に触れたりする中で、「自分はもっと頑張るべきではないか」と感じてしまうこともあるかもしれません。
これらの感情は、決して特別なことではありません。多くの介護者が経験する、ごく自然な心の動きなのです。
自分を責める気持ちと向き合うためのステップ
ご自身を責めてしまう気持ちや、「これで良いのかな」という不安な感情を少しでも和らげるために、具体的な三つのステップをご紹介します。
ステップ1:自分の感情に気づき、言葉にする
まずは、今ご自身が何を感じているのかに意識を向けてみましょう。 「自分は今、〇〇について不安を感じている」「〇〇のことで、自分を責めている」と、心の中で呟いたり、メモに書き出したりするだけでも構いません。
感情に名前をつけることで、その感情と少し距離を置き、客観的に見つめることができるようになります。これは、感情に飲み込まれず、冷静に対処するための大切な一歩です。
ステップ2:完璧でなくても良いと受け入れる
介護には多くの困難が伴います。時には、思い通りにいかないこと、手を尽くしても改善しないこともあります。 そうした時に、「自分の努力が足りないせいだ」とご自身を責めてしまうのではなく、「できる限りのことはした」と、今のご自身の頑張りを認めてあげることが大切です。
「今日はここまでできた」「少し休むことができた」といった、小さな達成感や努力に目を向け、ご自身を労う時間も必要です。完璧な介護を目指すのではなく、「十分頑張っている」とご自身に語りかけてみましょう。
ステップ3:誰かに話してみる勇気を持つ
一人で抱え込まずに、ご自身の気持ちを誰かに話してみることも、心を軽くする上で非常に有効です。
- 信頼できる家族や友人: まずは、身近で話を聞いてくれる人に、率直な気持ちを伝えてみましょう。
- 同じ立場の人との交流: 地域の介護者サロンや家族会など、同じ慢性疾患の介護をしている方々と話すことで、共感や具体的なヒントを得られることがあります。
- 専門機関の活用: 地域包括支援センターや、各疾患の患者会・家族会、精神保健福祉センターなどでは、専門の相談員が話を聞き、適切なアドバイスや情報提供を行っています。匿名で利用できる電話相談窓口もございます。
話すことで、気持ちの整理がついたり、新しい視点に気づけたりするだけでなく、「自分は一人ではない」という安心感を得ることができます。
自己肯定感を育むための日常の心がけ
「自己肯定感」とは、「自分には価値がある」「今の自分で良い」と、ありのままの自分を受け入れられる気持ちのことです。介護中にこれを保つことは難しいと感じるかもしれませんが、日々の小さな心がけで育むことができます。
- 「私にはできることと、できないことがある」と区別する: できないことを無理にやろうとせず、できる範囲で精一杯取り組むことを目標にしましょう。
- ご自身の心と体の声に耳を傾ける: 疲れていると感じたら、無理をせずに休憩をとる、好きなことをする時間を数分でも作るなど、ご自身を大切にする時間を作りましょう。介護はご自身の健康があってこそ続けられるものです。
- 小さな「できた」を見つける習慣: その日に「できたこと」を一つでも良いので振り返ってみましょう。例えば、「今日は笑顔で話せた」「食事をきちんと用意できた」など、どんなに些細なことでも構いません。
最後に
慢性疾患の介護は、長期にわたることが多く、その中で感情の波を経験することは自然なことです。「これで良いのかな」という気持ちや、ご自身を責める気持ちは、決して弱い心を示すものではありません。むしろ、真剣に向き合っている証拠なのです。
ご自身の心と体を大切にすること、そして完璧を求めすぎないことが、長く穏やかに介護を続けていくための大切な秘訣です。必要だと感じた時には、遠慮なく周りのサポートを頼ってください。